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【AWS re:Invent 2025】「Amazon Bedrock AgentCore」で実現するAIエージェント構築

DXソリューション営業本部の山本です。AWS re:Invent 2025の会場から引き続きお届けしています。
生成AI(GenAI)の波は「チャットボット」から、自律的にタスクを遂行する「エージェント(Agentic AI)」へと急速に進化しています。
しかしエージェントの実装は「テナント間のデータ横断のリスクはどうする?」「推論コストの按分は?」「長時間実行時のステート管理は?」等、PoCはできるが、本番環境への適用には困難な壁が多かったのも事実です。
そんな悩みを一掃するかもしれない、「Amazon Bedrock AgentCore」を活用したマルチテナントSaaS構築のセッション(SAS407)に参加してきました。
本記事では、新発表のAgentCoreの正体と、それを活用したSaaSアーキテクチャの勘所を、技術的な深掘りを交えてレポートします。
主要なアップデートと発表のハイライト
本セッションでは、Amazon Bedrock AgentCore という新しいプラットフォーム(一連のサービス群)が、いかにしてSaaSの複雑な要件(マルチテナント)を解決するかが語られました。
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Amazon Bedrock AgentCore Runtime:
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エージェントコードをサーバーレスで実行する環境。最大8時間の長時間実行や非同期処理をサポートし、インフラ管理を大幅に削減します。
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Amazon Bedrock AgentCore Gateway:
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MCP (Model Context Protocol) をフルマネージドで提供。既存のAPIやLambdaを「ツール」としてエージェントに公開し、一元管理・セキュアな接続を実現します。
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Amazon Bedrock AgentCore Identity:
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エージェントのためのID管理。ユーザー(Inbound)の認証だけでなく、エージェントが外部ツールを叩く際(Outbound)の代理認証もハンドリングします。
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AgentCore Memory:
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セッションごとの「短期記憶」と、会話を跨いでユーザーの好みを記憶する「長期記憶(Long-term Memory)」を提供。SaaS向けに論理分離が可能です。
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詳細解説:AgentCoreで解く「SaaS × AIエージェント」の5つの壁
講演では、SaaS × AIエージェント構築における「5つの壁」に対し、AgentCoreがどうアプローチするかを解説しました。
1. テナントの初期設定(Tenant Onboarding)
これまで、LangChainなどのフレームワークでエージェントを作ると、それを動かす「コンピュート環境(FargateやLambda)」、「メモリ管理(DynamoDBなど)」、「ツール接続」を全て自前で設計・運用する必要がありました。
AgentCoreの革新性は、これら「エージェントに必要な周辺インフラ」をAWSがマネージドサービスとして提供した点にあります。特にMCP (Model Context Protocol) のネイティブサポートにより、ツールの標準化が一気に進みます。開発者は「エージェントのロジック」だけに集中でき、SaaS特有の「テナント分離」の実装コストが劇的に下がります。
2. Identity(アイデンティティ):エージェントに「誰」を認識させるか
SaaSでは「誰が(ユーザー)」「どのテナントに属して」アクセスしているか管理が必須です。
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Inbound Authorization(入り口):
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Cognito等で発行されたJWTトークン(テナントIDやTier情報を含む)を
AgentCore Identityが検証し、エージェントに渡します。
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Outbound Authorization(出口):
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これが重要です。エージェントがSaaSのAPIやDBを触る際、「Workload Identity」 を使用して一時的なクレデンシャルを発行します。
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これにより、エージェントは「テナントAのユーザー」として振る舞い、テナントBのデータにはアクセスできないよう制御されます。
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3. Data Partitioning(データパーティショニング):メモリの壁
エージェントの「記憶(Memory)」がテナント間で混ざることは致命的です。セッションでは2つのモデルが示されました。
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Siloモデル(分離重視): テナントごとにAgentCore RuntimeやMemoryリソースを物理的に分ける。プレミアムTier向け。
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Poolモデル(共有重視): リソースは共有し、論理的に分離する。
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AgentCore Memoryの活用:
Actor IDという識別子に「テナントID」や「ユーザーID」を組み込むことで、物理的には1つのDBでも、論理的に完全に分離された会話履歴を管理します。
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4. Tenant Isolation(テナント分離):リソースアクセスの制御
エージェントが「Knowledge Base(RAG)」や「S3」にアクセスする際の制御です。他テナントにはアクセスさせないようにする必要があります。
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RAGの分離: PoolモデルのKnowledge Baseでは、データ取り込み時にメタデータ(テナントID)を付与します。検索時、AgentCore GatewayがJWTからテナントIDを抽出し、自動的にMetadata Filteringを適用。他テナントのドキュメントが検索結果に出ないようにします。
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ABAC(属性ベースアクセス制御): S3やDynamoDBへのアクセスには、IAMのABACを活用し、動的に生成されたクレデンシャルでアクセス範囲を絞ります。
5. Observability(可観測性):コストと挙動の追跡
AIエージェントは高コストになりがちです。SaaSビジネスでは「どのテナントがどれだけトークンを使ったか(Unit Economics)」の把握が重要です。
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AgentCoreはOpenTelemetry (OTEL) を標準サポートしており、CloudWatch等にメトリクスを送れます。
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Custom Metrics:
TenantIDをカスタムメトリクスとして埋め込むことで、CloudWatch Logs Insights等で「テナントごとのトークン消費量」を集計可能になります。これをQuickSightで可視化すれば、テナントごとの請求金額の算出も容易です。

所感・まとめ
「エージェントは作れるが、本番のSaaSに組み込むのは怖い」と感じていた開発者にとって、このセッションは希望の光でした。特に AgentCore Gateway が MCP をサポートしたこと は、今後のエージェント開発の標準が「MCPベース」になることを決定づける動きだと感じます。
「データレイクに全てのデータを集めてからAIをやる」——それが理想ですが、現実はそう簡単にいきません。データは散らばったまま、サイロ化し続けています。
今回の発表を聞いて、Amazon Bedrock AgentCoreは、「データは分散したままでいい。エージェントが安全にそこへ出張して、情報を取ってくる」という、極めて現実的かつ実用的なアプローチを提示していると感じました。
開発者はエージェントの「賢さ」に集中し、インフラ担当は「コストと安全性(ガードレール)」に集中する。
AgentCoreは、チームの役割分担をより健全な形に再定義してくれるかもしれません。
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